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2021.03.30

不動産業務

CREマネジメントの必要性について

 不動産を取り巻く環境はここ数年で大きく変化してきています。REITや証券化、不動産投資ファンドの登場等により不動産の価値に対する考え方の変化や土壌汚染の問題による土壌汚染対策法の制定や耐震問題による建築基準法の改正などの法的環境も変化してきております。
 さらに企業を取り巻く環境の変化として内部統制の法的強制、国際会計基準へのコンバージェンス、CSR志向、IT化、M&Aの一般化等さまざまな変化がみられます。
 これら全てに対応し、なおかつ企業にとって限られた資源である不動産を企業経営に最大限有効活用していくためにCREマネジメントが必要となってきます。

◎CREマネジメント導入における主なポイント

(1)不動産資産の価値の向上

 ・一括管理によるデータ集約、分析
 ・意志決定プロセスの明確化・集約化

(2)内部統制の義務化による一貫したマネジメントの必要性

 ・会社法による内部統制システム構築義務
 ・金融商品取引法による内部統制システム構築義務と報告・監査義務

(3)M&Aへの対策

 ・企業価値の向上
 ・不動産M&A対策

(4)CSRの観点

 ・収益性の向上によりステークホルダーへの還元・税金納付
 ・善管注意義務による不動産の適切な運用(土壌汚染や安全配慮、環境配慮等)
 ・コンプライアンスへの配慮

 

(1)不動産資産の価値の向上

一括して企業不動産を管理し、意志決定プロセスを集約し、より経営において上位のクラスで意志決定を行うことによって、企業不動産の収益を向上させることになります。
企業不動産を一元管理することによって収益性の低い不動産や遊休不動産等、所有コストが高く赤字を出している不動産等を割り出したり、また収益性の高い不動産のコスト処理等を分析し、他の不動産に応用することもできます。また企業不動産の売却・購入・有効活用等の意志決定もより有効に行えるようになります。

(2)内部統制の義務化による一貫したマネジメントの必要性

CREマネジメントはその収益や経営資源のうち占める割合からみても、経営戦略の一翼を担うものであり、内部統制の考えを無視していくことはできません。企業不動産は、収益や業務営業等の源泉となり大きく影響を与えています。
よって、企業不動産は内部統制システムをもって運用される必要があります。

  1. 内部統制とは
     企業内において、(A)業務の有効性・効率性、(B)財務報告の信頼性、(C)法令等の遵守、(D)資産の保全の四つを大きな目的とし、具体的には違法行為、不正、ミス、エラー等がでないように、組織が健全で有効・効率的に運営されるように、各業務で所定の基準(フレームワーク)や手続きを定め、それに基づいて管理・監視・保証を行い、そのための一連の仕組みを内部統制システムといいます。
    また、内部統制の基本的要素は(a)統制環境、(b)リスクの評価と対応、(c)統制活動、(d)情報と伝達、(e)監視活動、(f)ITの活用の六つで、これらを組み込んだ仕組みを作らなければなりません。そのうち(f)のIT化については、アメリカの基準に日本独自で追加された基本的要素で、取締役会が意志決定に用いる情報、伝達手段、あるいは監視活動を行う際の業績評価指標の収集など、内部統制プロセスはITの利用が前提となっています。
    以上の目的のためのプロセスを、企業で運営される業務について基準・手続き等を整備し、それをIT化のうえ、職員に浸透させ、整備されたプロセスをサイクルさせることが日本における内部統制システムとなります。

  2. 会社法
     会社法では一定規模以上の会社について取締役会による内部統制の決定を強制するとともに、その決定すべき事項を規則をもって定めたうえ、その決定内容を開示すべき義務を定めています。(会社法第362条第4項、5項、会社法施行規則第100条、118条第2号)ただし、会社法による内部統制システムの義務は取締役の義務で、その内容については何も強制されていないものの、不適切な内部統制システム(重大なリスクを見逃すような仕組み等)を構築した場合には取締役の善管注意義務違反等にあたる場合があります。
     さらにこの内部統制システムは開示義務があり、株主を始めとするステークホルダーの目にも触れるため、コンプライアンスリスクのコントロールのためにも適切な内部統制システムを構築・運用する必要があります。

  3. 金融商品取引法
     会社法上の内部統制が原則として会社の自由な設計に委ねられているのに対して、金融商品取引法では一定の手続き・事項・水準に準拠した内部統制が構築・運用されるべきとされています。つまり、業務を適切に監視・監督することによって正確な財務情報が開示されるために、内部統制の最低水準が法定されており、自由な制度設計は許されていません。
     会社法では内部統制システムの義務違反等については取締役が会社に対して損害賠償責任を負いますが、金融商品取引法では内部統制報告書を内閣総理大臣に提出の上、監査法人・公認会計士の監査を経ることとし、その上で評価・報告に虚偽等があった場合、役員及び監査人は投資家に対して損害賠償責任を負うものとし、刑事罰の対象となります。

(3)M&Aへの対策

まず、企業不動産が適正な収益を生み出していないと企業価値が低くなり、M&Aの対象になりやすくなり、合併や買収の際に株主や債権者が不利益を受けます。しかし、CRE戦略により企業不動産の価値を適正化することによって企業価値を高めることができます。
また企業不動産の資産に対する割合が大きい場合、企業不動産の価値が企業価値の中に占める割合が高いことを意味します。
そして、簿価が安く時価の高い不動産を放置しておくと不動産M&Aの対象となってしまいます。不動産M&Aの場合は不動産の簿価が安いために企業価値が低く、かつ不動産時価が高い企業を買収し、事業を廃止して不動産を売却しても利益が出てくることになります。
これを避けるためには、常に不動産の価値をより高め、時価を表しておく必要があります。

(4)CSRの観点

最近の企業不祥事の増加、あるいは環境問題への意識が高まる中、企業の社会的責任(CSR)への関心がますます高まっています。
不動産収益を向上させることによって、企業の持続的成長・発展に寄与し、ステークホルダーに利益を還元し、納税等さまざまな社会的責任を果たすことになります。
また、不動産を有効活用し、地域の景観・街並み等に貢献し、緑地の確保や環境配慮等さまざまな地域貢献や社会的責任もあります。
そして、CRE戦略によって不動産に関わるリスクを最小化していくことや、コンプライアンスに応えていくことが、内部統制には組み込まれているので、それ自体が社会的責任に応えていくことになります。

※以上は国土交通省監修の「CRE(企業不動産)戦略実践のために―ガイドラインと手引き―」を参考にしています。