COLUMN

コラムColumn

2021.06.16

不動産業務

地中を読み解く能力

 土地を購入する際に地中に何が埋まっているのか、地盤は建物等の重さに耐え得るのか、土地値はいくらになるのか等は気になるところです。地歴からある程度まで判読できるものの、素人にはその調査は容易ではありません。地盤となるとなおさらのこと、土地値はもってのほかです。

 不動産鑑定士等が不動産の鑑定を行う場合は、不動産鑑定評価基準は価格形成要因のうち自然的要因の一項目として「地質、地盤等の状態」が、個別的要因の一つとして「地勢、地質、地盤等」がそれぞれ挙げられています。更に、国土交通省の土地価格比準表(七次改訂)においても地域要因及び個別的要因の自然的環境項目として「地勢、地盤等」が記載されています。従来から地価と地盤との関連については避けては通れないテーマとなっており、視認できる地表面のみではなく、土地の地盤、地質等の地中までの状態を読み解く能力が必要とされているのです。

 鑑定実務においては、地盤等の関連資料の入手が困難であり、また、工事費の積算は専門外であることから、一部の例外(埋立地等の評価)の場合を除いて、用途性・周辺の地価水準等との関連性について検討することはなく、不動産鑑定士等の経験値の積み上げによる判断により、一律に格差を決めていたことが多かったと思われます。地価と地盤の関係について論究している書物に巡りあわせたことはないので、その関連を探り当てる手立てはないものかと思いを巡らしていました。

 最近になって一定のエリアになりますが、地盤マップ等のウェブサイト(注1)で、地質・地盤等に関するボーリング柱状図の閲覧ができるようになりました。また、地上建物の延床面積を求めることにより、支持層までの深さが判明すれば、JBCI・工事費シミュレーションソフト(注2)を利用して、地業(杭)工事費相当額の査定も可能となりました。

 そこで、以下の諸元を所与としたモデルケースを設定し、支持層(N値50以上)までの深さの変化による地業(杭)工事費相当額(RC杭、アースドリル工法による杭工事費用)を査定のうえ、標準支持層30mを100とした場合の敷地面積別及び地価水準別の土地総額に対する格差率を求め、地盤の土地価格比準表の作成を試みました。(表1参照)

  1. 設例(東京圏の分譲共同住宅地:建ぺい率:60%、建物容積率:200%)

    敷地面積:500㎡~2,000㎡
    建物構造:RC造
    支持層までの深さ:-10m~-50m(標準支持層を-30m)
    地価水準:1㎡当たり15万~100万円

  2. 設例(東京圏の自社事務所地:建ぺい率:85%、建物容積率:600%)

    敷地面積:300㎡~1,000㎡
    建物構造:SRC造
    支持層までの深さ:-10m~-50m(標準支持層を-30m)
    地価水準:1㎡当たり30万~300万円

 次に土地価格比準表を参考に敷地面積別に地価水準と支持層までの深さの違いによる格差グラフを作成しました。(図1参照)

 以上のことから、支持層までの深さの違いによる格差は、共同住宅地、自社事務所地ともに敷地面積が広くなるか又は地価水準が高くなるかに伴ってその開差は縮まる傾向が見られました。特に地価水準の高い自社事務所地については、敷地面積に関係なく、支持層までの深さの違いによる格差の影響はほとんど見られない結果となりました。
 
 単価が高く土地投資額の大きい地域では地盤の軟弱についてほとんど関心を示さなくても良いのでしょう。

(表1)
【共同住宅地】

【自社事務所地】

(図1)
【共同住宅地】

【自社事務所地】

(注1)地盤情報閲覧サイト「G-SpaceⅡ」を参考に査定
(注2)JBCI・工事費シミュレーションソフトは2016年版をもって廃止となった。